DXは、ツールを入れることではなく、仕事の進め方を変えることです。中小企業なら、紙や手作業の仕事をデータで動かすところから始めれば十分です。この記事では、DXの考え方と、最初の進め方、うまくいかないときの原因を書きます。
DXは、仕事の進め方を変えること
経済産業省の説明
経済産業省の説明を要約すると、データとデジタル技術を使って、製品やサービス、ビジネスモデル、業務や組織、企業文化まで変えて、競争上の優位性を確立することです。単なるIT化とは違い、会社のやり方そのものを変える話として位置づけられています。
経営者の言葉に直すと、どの仕事に、いくらかけて、いつ元を取るかを決める話です。
DXの3つの段階
DXは、次の3段階で説明されることがあります。
- デジタイゼーションは、紙の書類や記録をデータにすること。請求書をスキャンしてPDFで保存する、といったことです。
- デジタライゼーションは、一つの業務をデジタルの仕組みで回すこと。たとえば、Excelの顧客管理を営業支援ツールに移します。
- DXは、ためたデータを使って、商品・サービスや仕事の進め方そのものを変えること。顧客データを分析して新しいサービスを作る、などです。
段階ごとに、できているかどうかの目安を表にまとめます。
| 段階 | やること | できているかの目安 |
|---|---|---|
| 1. デジタイゼーション | 紙や記録をデータにする | 書類を探す時間が減っている |
| 2. デジタライゼーション | 一つの業務をデジタルで回す | 同じ内容を、二度入力していない |
| 3. DX | データを使って、やり方や商品を変える | データを見て、判断や行動が変わっている |
紙やExcelが中心の会社は、1段階目から始めれば十分です。いきなり3段階目に投資すると、ツールだけ入って使われないことになりがちです。
中小企業がDXに取り組む理由
取り組む会社は増えている
IPA(情報処理推進機構)のDX動向調査では、2026年7月の発表で、8割近くの企業がDXに取り組んでいるとされています。IPAの「DX動向2024」では、取り組む企業の割合は、2021年度の55.8%から、2024年度は73.7%に増えました。ただ、2022年度の調査を分析した資料(IPAのディスカッション・ペーパー)では、従業員100人以下の会社で「取り組む予定はない」が3割強でした。当時は、小さい会社ほど、これから、という段階でした。
成果の出方にも差があります。成果が高いのは業務の効率化で、新しい商品やサービスの創出のような、企業の価値につながる項目は低い状況が続いていると発表されています。つまり、最初の成果が出やすいのは、日々の仕事を楽にするところです。中小企業が小さく始めるのは、理にかなっています。
詳しい数字は、IPAの発表資料をご覧ください。
人手不足
人を増やせないなら、定型作業を減らすのが現実的です。請求書の作成、在庫や予約の管理、社内の連絡などをツールに任せれば、人は判断や接客に時間を使えます。
2026年版の中小企業白書でも、省力化投資やAI活用、デジタル化が、人手不足への対応として有効だとされています。
取引先のデジタル化
2024年1月から、メールなどで受け取った請求書や領収書の電子データは、電子のまま保存することが必要になっています。紙に印刷して保管するだけでは認められません。細かい要件や猶予の扱いは、国税庁の案内か、税理士に確認してください。
取引先から電子の請求書や契約書が届く場面は、これからも増えていくでしょう。対応できれば、取引先とのやり取りが楽になります。
生成AIも、DXの入口
使う会社は増えている
総務省の令和8年版情報通信白書では、回答した日本企業の86.4%が、何らかの業務で生成AIを使っていると答えています(令和8年版)。使うこと自体は、もう珍しくありません。別の調査である令和7年版では、メールや議事録、資料作成の補助に使っている企業は47.3%でした。版ごとに調査の対象や聞き方が違うので、数字は並べて比べないでください。
使うかどうかより、使い方を決めているかどうかが、これからの課題です。令和7年版の白書では、中小企業は、生成AIの活用方針を明確に定めていないという回答が、約半数を占めました。使い始めている人はいても、会社としての方針がない。そんな状態の会社が多いということです。詳しくは、総務省の令和8年版情報通信白書をご覧ください。
試しやすい仕事
生成AIは、専用のシステムを組まなくても、今日から試せます。向いているのは、文章を作る、まとめる、案を出す仕事です。最終的な確認は、人がします。
| 仕事 | 生成AIにやらせること | 人がやること |
|---|---|---|
| 見積書や案内文の作成 | 下書きを作る | 内容と数字を確認して、送る |
| 打ち合わせの議事録 | 文字起こしを要約する | 決まったことと担当を確認する |
| お客様への返信メール | 返信の案を作る | 事実を確認して、言い回しを整える |
| 資料や提案書の作成 | 構成案や見出し案を出す | 中身を考えて、事実を確認する |
合わなければ、やめればいいだけです。まずは一つの仕事で、1か月ほど試してみるのがおすすめです。
向いていない仕事
次のような仕事は、生成AIに任せきりにしないほうがいいです。
- 計算や数字の正確さが求められる仕事。生成AIは、もっともらしい間違いを書くことがあります。
- 法律や制度の判断。最新の内容かどうかを、AIは保証してくれません。
- 顧客の個人情報や、取引先の機密を扱う仕事。入力してよいかどうかを、先に決める必要があります。
入力する情報のルール
顧客の個人情報や取引先の機密は、入力していいかどうかを、使う前に社内で決めておきましょう。詳しくは、生成AIを使いたいけど何から始めればいいか分からないとき、最初に考えることに書いています。
DXがうまくいかないとき
DXの相談でよく聞く、うまくいかない原因をまとめます。一般に言われていることですが、どれも、始める前に防げます。
- ツールが先になっている。何を減らしたいかが決まらないまま選ぶと、機能の比較で終わります。先に、減らしたい仕事を決めます。
- 現場が使わない。入れたツールが、現場の手順に合っていないことがあります。使う人の意見を、選ぶ前に聞きます。
- 全社で一気に始める。費用も、社内の負担も大きくなります。一つの仕事で試して、合えば広げます。
- 効果を測っていない。やめる目安がないと、効果が出ていなくても、使い続けてしまいます。試す前に、時間か費用の目安を決めます。
- 担当者が一人で抱える。その人が異動や退職をすると止まります。やり方を、紙でもいいので残しておきます。
どれも、特別なことではありません。ただ、忙しいと、後回しになりやすいところです。
DXは何から始める?
時間がかかっている仕事を一つ選ぶ
最初に決めるのは、ツールではなく、どの仕事の何を減らしたいかです。全社導入やツール選びから入ると、うまくいきにくいです。
- 時間がかかっている仕事を、書き出す
- その中で、毎回同じ手順の作業に印を付ける
- 一番手間のかかる作業を、一つだけ選ぶ
- 試す前に、やめる目安を決める。かかっている時間を人件費に置き換えて、ツールの費用と比べる
- 無料か低価格のツールで試す。目安に届いたら広げて、届かなければやめる
書き出すときは、次のような表にすると、選びやすくなります。
| 作業 | 頻度 | 1回の時間 | 毎回同じ手順か | 優先 |
|---|---|---|---|---|
| 見積書の作成 | 週5回 | 30分 | はい | ◎ |
| 月次の売上集計 | 月1回 | 2時間 | はい | ○ |
| お客様への個別提案 | 月3回 | 1時間 | いいえ | − |
やめる目安は、たとえば「1か月試して、月に5時間以上短くならなければやめる」のように決めます。数字は、仕事の量に合わせて変えてください。
小さく始めて、合わなければやめる。DXは、その繰り返しで十分です。
ITツールの導入に使える補助金
ITツールを入れるときは、国の補助金が使える場合があります。代表的なのが、2026年度から名前が変わった「デジタル化・AI導入補助金」(旧IT導入補助金)です。ここでは、2026年度の内容をまとめます。年度ごとに変わるので、申請するときは、必ず最新の公募要領を確認してください。
どんな補助金か
業務管理システムや会計ソフトなど、AIを含むITツールの導入を支援する補助金です。補助の対象になるのは、事務局に登録されたITツールです。自由に選んだツールが、すべて対象になるわけではありません。
申請は、IT導入支援事業者(ITベンダーなど)と一緒に進めます。導入したあとの活用も、支援を受けられる仕組みです。
枠の種類
| 枠 | 対象になるもの |
|---|---|
| 通常枠 | 業務効率化から売上向上まで、幅広いITツール |
| インボイス枠(インボイス対応類型) | インボイスに対応した会計・決済ソフトなど |
| インボイス枠(電子取引類型) | 受発注業務のデジタル化 |
| セキュリティ対策推進枠 | サイバーセキュリティ対策の強化 |
| 複数者連携デジタル化・AI導入枠 | 地域や取引先と連携した、共通の課題の解決 |
補助率は、枠によって2分の1から5分の4までです。補助の上限額は、最大450万円です。どの枠を使えるかで、補助率と上限が変わります。
申請の時期
2026年度の申請受付は、10月30日までと案内されています(受付開始は3月30日)。公募は、回ごとに締切が分かれていることがあります。締切を過ぎている場合は、次の公募の有無を、公式サイトで確認してください。詳しくは、ミラサポplusの案内ページをご覧ください。
使う前に確認すること
補助金は、先に自社で支払って、あとから受け取るものが少なくありません。その間の資金繰りを、申請前に確認しておきましょう。
多くの補助金では、交付が決まる前に発注や契約をすると、補助の対象外になりやすいです。ツールを先に契約してしまわないように、公募要領で、順番を確認してください。
事業計画に位置づけておくと、金融機関にも説明しやすくなります。
ご相談について
私は大手SIerで、金融機関向けのシステム開発に携わったあと、中小企業診断士として独立しました。ITの話と、経営や資金繰りの話を、一人の相談相手にまとめて話せます。
情報セキュリティの国際規格ISMS(ISO27001)の審査員補の資格もあり、生成AIの入力ルールづくりも、あわせて相談できます。
何から手を付ければいいか分からない、という段階でも大丈夫です。初回30分程度までは無料で、Google Meetまたは電話でお話しします。AI・DX活用の支援内容は、AI・DX活用支援のページにまとめています。
